しかし実際には、相続では預貯金や不動産などの資産だけではなく、借金や債務などの負債も引き継ぐ可能性があります。
そのため、「負担が大きそうだから相続放棄をしたい」と考える方が近年多くなっています。
令和6年司法統計年報(家事編)によれば、「相続の放棄の申述の受理」の件数は令和元年が225,416件に対して、令和6年は308,753件と増加しています。
相続放棄は、被相続人の財産や債務を一切受け継がないための非常に重要な制度です。
ところが、相続放棄は希望すれば必ず認められるものではありません。知らないうちに取った行動や、手続き上の不備によって、相続放棄ができなくなってしまうケースもあります。
今回は、
・相続放棄とはどのような制度なのか
・どのような場合に相続放棄ができなくなるのか
といった基本的なポイントを、初めて相続に直面する方にもわかりやすくご紹介します。
相続放棄とは、「被相続人の権利も義務も一切引き継がず放棄する」という制度です。
相続放棄が認められると、法律上は「最初から相続人ではなかった」ものとして扱われます。
一部の財産や債務だけ放棄することはできない点に注意しましょう。
相続放棄をするには、次のように家庭裁判所での手続きが必要になります。
相続放棄の申述は、「被相続人が亡くなったことを知った日から原則3か月以内」に行う必要があり、この期間内に家庭裁判所への提出が完了していなければ、相続を承認したものと扱われる可能性があります。
相続放棄は、被相続人の財産や借金を一切引き継がないための重要な制度ですが、一定の行為をしてしまうと、法律上「相続を承認した」と判断されるため、相続放棄ができなくなることがあります。
これを 「単純承認(相続を承認したとみなされること)」 といいます。
相続放棄ができなくなる代表的な基本ケースとして、
① 相続財産に手を付けてしまった場合
② 相続放棄の期限を過ぎてしまった場合
③ 遺産分割の話し合いに参加してしまった場合
④ 被相続人の債務を弁済してしまった場合
があります。順におって見ていきましょう。
結論:相続財産を処分・使用すると、「相続を承認した行為」と判断されます。
相続放棄を考えているにもかかわらず、「被相続人の財産を使ったり、動かしたりしてしまう」と、相続を承認したものと判断されることがあります。
これらはいずれも、「相続財産を自分の判断で処分した行為」とみなされ、相続する意思がある(=単純承認)とみなされる可能性があります。
結論:3か月を過ぎると、原則として「相続を承認したもの」と扱われます。
最初にご紹介したとおり、相続放棄には「原則3か月以内に家庭裁判所へ申述する」という期限があります。
しかし実際には、相続放棄をするつもりでいても、準備に時間がかかり、結果的に期限を過ぎてしまうことがあります。
ここで注意したいのは、「うっかり忘れていた」ケースだけではなく、手続きを進めようとしていたのに間に合わなかったケースも少なくないという点です。
特に注意が必要なのが、手続きに必要な戸籍謄本の取得に時間がかかるケースです。
相続関係を確認するためには、自身や被相続人だけでなく、相続順位が上の方がすでに亡くなっていることを確認する戸籍が必要となる場合があります。
たとえば、
・被相続人が兄弟姉妹の場合
・代襲相続が発生している可能性がある場合
などでは、過去の戸籍をさかのぼって取得しなければならず、想定以上に時間がかかることがあります。
また、戸籍謄本は本籍地の市区町村で取得する必要があるため、
・本籍地がすぐに分からず、確認に時間がかかるケース
・本籍地が遠方にあり、郵送請求となるケース
では、書類が揃うまでにさらに日数を要することも少なくありません。
このように、手続きを進めようと思った時点では期限内でも、戸籍収集に時間がかかり、結果として申述が間に合わなくなるケースが実務では見受けられます。
相続放棄を検討している場合は、「まだ3か月あるから大丈夫」と考えず、できるだけ早く戸籍の収集に着手することが重要です。
結論:遺産分割への関与は、相続する意思があると受け取られることがあります。
相続放棄を考えているにもかかわらず、
・遺産分割協議に参加した
・財産の分け方について意見を述べた
といった行為をすると、相続する意思があると判断されることがあります。
その結果、相続放棄が認められなくなる可能性があります。
結論:債務の支払いは、相続人として行動したと評価するおそれがあります。
被相続人に対する請求書が届いた際、「迷惑をかけたくない」「少額だから」といった理由で、相続人が支払いをしてしまうケースがあります。
しかし、こうした被相続人の債務を弁済する行為は、法律上「相続を承認した行為」と判断され、相続放棄ができなくなる可能性があります。
この点については、誤解されやすく、実際にトラブルも多いため、次回のコラムで具体的な事例を交えて詳しく解説します。
相続放棄は、被相続人の財産や借金を引き継がないための大切な制度ですが、「相続放棄したいと思っていたかどうか」だけでは判断されない点に注意が必要です。
今回ご紹介したように、
・相続財産に手を付けてしまった
・相続人として行動したと受け取られる行為をしてしまった
・手続きや期限を正しく理解できていなかった
といった理由で、本人の意思とは関係なく、相続放棄ができなくなるケースがあります。
特に注意したいのは、「良かれと思って行動したこと」が、後から相続放棄の妨げになることがあるという点です。
相続の場面では、善意と法律上の判断が必ずしも一致しないことがあります。
次回は、実務上特に相談の多い、「被相続人に対する請求を善意で支払ってしまった結果、相続放棄ができなくなるケース」について、具体的な事例を交えながら詳しく解説します。
「ついやってしまいがち」な行動ばかりですので、相続放棄を検討している方は、ぜひ続けてご覧ください。