税理士が解説する わかりやすい相続税と贈与税
不動産の譲渡 生前贈与か相続、どちらが有利?

不動産の譲渡
生前贈与か相続、どちらが有利?

土地や建物をお持ちの方の中には、「将来、子どもに財産を引き継ぐときに、できるだけ税金を少なくしたい」と考える方も多いのではないでしょうか。近年は地価の上昇が続いている地域もあり、「今のうちに贈与しておいた方がいいのでは」とお考えになる方も少なくありません。そこでよく話題に挙がるのが、「生前贈与」と「相続」、どちらが有利なのかという問題です。

■ 生前贈与と相続の違い

生前贈与とは、存命のうちに相続人に財産を譲渡することをいい、その際には贈与税が発生します。一方で、亡くなってから相続人に財産が引き継がれる相続では相続税が発生します。つまり、「生きているうちに渡す」か「亡くなってから渡す」かの違いで、適用される税金の種類が異なるのです。

■ 贈与税と相続税、どちらが高い?

一般的には生前贈与よりも相続の方が税金を抑えられると言われています。その主な理由は以下の3つです。

  1. 「基礎控除額」が贈与税より高い
    どちらの税金にも、ある一定の金額以下には税金がかからない「基礎控除額」があります。相続税の基礎控除額は 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)で計算されます。一方で贈与税の基礎控除額は年間110万円と小さいため、土地や建物のようにまとまった金額を一度に譲渡する場合は、基礎控除額が高く設定されている相続の方が税金を抑えられる、または税金がかからないこともあります。

  2. 「税率」が贈与税より比較的低い
    相続税の税率の方が比較的低く設定されている点です。これは国が、相続税を回避するために生前にまとめて贈与することを抑制するために贈与税の税率を厳しくしているためです。また、土地や建物の名義を変更する際に発生する登録免許税についても、相続の方が低く設定されており税負担の軽減に効果的です。

  3. 特例が多い
    相続では特例・優遇措置が多く、それらを活用することで税金を抑えやすいのが実情です。一部をご紹介します。
    小規模宅地等の特例・・・自宅や事業用の土地の評価額を最大80%減額する制度
    配偶者の税額軽減・・・配偶者が取得した相続財産にかかる相続税のうち、法定相続分に対応する金額、または1億6,000万円のどちらか高いほうの金額までは相続税がかかりません。
  4. このように相続には制度が多く存在し、結果として税金を抑えられることができます。

    ■生前贈与が有利になるケースもある

    相続の方が税金を抑えられるとお伝えしてきましたが、「生前贈与は損」と言い切れるわけではありません。
    贈与税の基礎控除額や相続時精算課税制度を活用すると、贈与税を抑えることができ結果として相続税対策にもつながる可能性があります。
    このことについてはコラム➤【終活での相続対策!相続時精算課税制度を活用しよう】もご参照ください。

    評価額のタイミングを使った節税
    土地・建物の評価額は「路線価」や「固定資産税評価額」を基に算出され、地域により変動します。特に都市部や再開発エリアでは土地の評価額が上昇する傾向にあります。同じ不動産でも評価額が低いうちに贈与しておけば、その時点の評価額で贈与税が計算されるため、将来の値上がりリスクを回避できる場合があります。

    ■ 生前贈与の本当のメリット

    生前贈与の本当の価値は、税金の額だけでは語れません。大きなメリットの一つは、「自分の意思で財産を引き継げる」という点です。相続の場合、財産は法律に従って相続されますが、生前贈与であれば贈与する相手や時期を自分で決めることができ、柔軟な対応が可能になります。

    また、相続で土地や建物が複数の相続人で共有されると、売却や活用時に大きな障害になります。生前に名義を整理しておくことで将来のトラブルを未然に防げます。さらに贈与を通じて家族で住まいや財産の活用について話し合う機会が増え、円満な財産承継に繋げていけます。

    ■ 最後に:節税以外の視点も含めて検討を

    生前贈与は税金だけで判断してしまうと見落としがちな大きなメリットがあります。「節税にならないから」と一概に避けるのではなく、家族の状況や今後の活用方法も踏まえたうえで検討することが大切です。