遺産分割における「嫁」の立場と特別寄与制度の活用
今回のコラムは、相続人に該当しない「嫁」が義父の遺産分割にどのように関与できるのか、また、介護などの貢献が遺産分割にどのような影響を及ぼすのかについて、相続の制度や仕組みに基づいて解説します。
寝たきりの時も、病院の付き添いも、家での介助も全部…。
なのに亡くなってから、義理の兄弟たちは『あなたは相続人じゃないから関係ない』って。
こんなに頑張ってきたのに、私は何ももらえないんですか…?」
義父の介護を長年担ってきたお嫁さんが、亡くなったあとに相続の場で“蚊帳の外”にされてしまう——
そんな理不尽に思える状況が、残念ながら現実に起こっています。
でも、法律的にはどうなのでしょうか?
そして、本当に「1円ももらえない」のでしょうか?
■ 法律上、「お嫁さん」は相続人ではない
結論から言うと、法律上、お嫁さん(長男の妻など)は義父にとっての「相続人」ではありません。
法定相続人になるのは、配偶者(義母)や実子(義兄弟)であり、嫁は相続権を持たない立場とされています。
つまり、介護をどれだけしても、遺産分割協議の当事者には原則として入れないのが現状です。
しかしここで諦めてはいけません。
■特別寄与制度
相続人ではない親族が、被相続人(亡くなった方)の介護や看護など生前に特別な貢献をした場合に、その労に報いるために、相続開始後に相続人に金銭を請求できる制度です。
・対象となる人(特別寄与者)
法定相続人以外の親族であること
(例:相続人の配偶者=「嫁」や、「婿」など)
被相続人の親族にあたる者であること(民法第1050条)
※「親族」とは、6親等内の血族および3親等内の姻族を指す
被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたと認められること
(例:長年にわたる無償の介護、看護、事業従事など)
相続開始後に相続人に対して特別寄与料の支払いを請求することができる
(→ 遺産分割協議または家庭裁判所への申立てにより請求)
・請求の期限
特別寄与料の請求の期限は、相続開始及び相続人を知った時から6か月以内、または相続開始の時から1年以内のどちらかいずれか早い方です。
・相続税の2割加算
相続や遺贈で財産をもらう人が、被相続人の子や配偶者以外の場合、相続税に2割が上乗せされます。
相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額を2割加算すると規定しています。
特別寄与制度により、特別寄与料を取得する者は、相続人以外の親族であることから、原則として2割加算の適用対象となります。
・特別寄与料の額は相続において債務控除の対象
相続人が特別寄与者に対して支払う特別寄与料は、相続税の課税価格の計算において債務として控除することができます
債務控除とは、被相続人が亡くなった時点での債務や葬儀費用などを、相続財産の総額から差し引くことで、相続税の課税対象となる財産の額を減らす制度です。
特別寄与料は「相続人にとっての支払い義務」なので、債務とみなされます
相続税の申告時に、その分だけ課税対象が少なくなる
実際に支払った金額を証明するための資料(領収書や合意書など)を残しておくと安心です。
相続税法では、被相続人の債務(借金など)や相続によって生じた一定の支払い義務は「債務控除」として、相続税の課税対象から差し引けると定められています。
特別寄与料は、相続人が法的義務として特別寄与者に支払うものとされており、支出する側(相続人)にとっては「債務」と考えられます。
そのため、支払額は相続財産から控除(差し引き)できるというのが、国税庁の基本的な考え方です。
■特別寄与制度を認めてもらうためのポイント
特別寄与制度を認めてもらうためには、以下のようなポイントが重視されます。
●介護が無償で継続的に行われていたか
●介護によって施設費用やヘルパー費用が抑えられていたか
●実際の介護内容や時間、頻度が記録されているか(介護日誌や通院履歴など)
また、相続人たちと協議が整わなければ、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることも可能です。
■ まとめ:「嫁は相続人じゃないからゼロ」ではない
義父の介護をしたお嫁さんも、努力が正当に評価される可能性があります。
「法定相続人ではない=何ももらえない」とあきらめる前に、制度を正しく知り、冷静に対応することが大切です。
もしご自身やご家族が似たような状況にあるなら、まずは弊所まで相談してください。
感情的な争いになる前に、冷静に話し合いの場を持つことで“がんばった人が報われる相続”へと導くことができます。